読書感想ブログ

感想文をバシバシガシガシ書きます。

【読書感想文】 森達也/A3 上巻 【2012年刊行】

 オウム真理教の一連の事件、テレビやラジオでたまに話を聞く森達也氏のどちらも昔から気になっていて、映画作品である「A」や「A2」を観ようを思いながらなかなか観る機会を作れず、だったらテキストで読もうとこの本を購入した。
 とても興味深い内容で、寝食も惜しんで読んだ。

【概要】

 作中でもある通り、タイトルのAは麻原彰晃のAである。
 メイン・テーマは二つある。
 一つは、「麻原は精神に異常をきたしている」のか「死刑を回避するために詐病を装っているだけ」なのかについて、二人の麻原の弁護団と裁判所が戦う。徹底的に戦う。
 そしてもう一つは、「オウム関連ではなぜ人権が黙殺されるのか」について。


【言い訳】
 常に考え込みながら読んだ。

 僕は、なにかものごとを判断する時に重要なのは「身体性」だと思っている。簡単に述べれば、「エアプ(エアープレイの略)」は絶対にしたくない、ということ。
 これは当たり前の話で、僕がここで「読んでもいない小説の感想文を、イメージや検索結果やSNSのつぶやきでわかった気になって書く」なんてのを正当化する話になってしまうから、絶対に駄目。

 そこから考えてみる。地下鉄サリン事件が起きたのは1995年。僕が八歳の頃で、関西出身なのでなにも記憶にない。自分や身内が被害にあったわけでもないし、あの頃の混乱を目の当たりにしたわけでもない。
 そもそも、詳しく知っているわけでもない。

 そんな僕が軽々しく、一冊の本を読んだだけでなにか言えるわけがない。だから感想文は詳しく書かずにしよう、と思っていたが――。

「この本を読んで思ったことを書くんだから、別によくないか? それに身体性はあるだろう」
 そういうわけで、感想文を書く。


【感想】
詐病or精神異常】
 あまり詳しくは知らない僕であっても、麻原の状態がわけのわからないことになっているということは知っていた。しかし僕も「死にたくないからフリしてるだけでしょ」と思っていた。
 著者が傍聴席から見た麻原、弁護士が見た麻原、そしてなにより麻原の次女と三女から見た麻原を詳しく述べているが、僕でもこれは「詐病じゃない」と思ってしまった。

 と、言うより、「詐病なのか詐病じゃないのかはっきりさせるために精神鑑定しましょう」と弁護団や著者が言っているのに、裁判官が麻原と面会した際に、裁判官の発言に麻原が「ふん、ふん」と言ったことを「意思の疎通ができている」だなんてわけのわからない理由で却下している。
 だから弁護団は五人の精神科医に麻原と面会させ、全員が「詐病ではない。治療させれば半年で意思疎通できるぐらいに回復する」と声明を発表したり、何度も何度も精神鑑定するように訴えている。しかし、なんの意味もない。

 麻原の精神異常が回復すれば、オウム真理教の一連の事件の謎が解明されるかもしれない。謝罪の言葉を口にするかもしれない。なんのデメリットもない。

 さすがの裁判所も精神鑑定を許可するわけだが、裁判所が選んだ精神科医で、弁護団はシャット・アウト。ここの流れは本当にどきどきした。


【人権問題】
 この人権問題についてを書くために最初に言い訳しておいた。

 もう、本当にひどい。ひどすぎる。僕の感情で判断する以前に、法律違反なわけで。
 なんのことかと言うと、高校や大学が次女と三女の入学を取り消したり、住民が街から信者を追い出そうとしたり、信者の転入を断ったことについて。
 読んでいてとてもつらかった。その人がいったいなにをしたのかと。
 一つ引用してみる。102頁、教団施設の退去を要請するところ。

 施設前に集合して退去を要求する地域住民たちは、対応に出た荒木浩と施設に居住する三人の出家信者に、「本当におまえたちに危険性がないというのなら、麻原彰晃の写真をこの場で踏んでみろ」と詰め寄った。
「写真を踏むことと私たちの危険性に関係があるのですか」
 周囲をぎっしりと包囲する群衆に視線を送りながら、写真を踏めと言った年配の男性に、荒木は少しだけ高揚した口調で質問した。あきれたように男性は即答する。
「大ありだよ」
「どう関係があるのですか」
「踏めるのか踏めないのかどっちだ」
「……私は誰の写真も踏めません」
 荒木のこの言葉に、群衆から驚きと怒りの声があがる。「やっぱりこいつらは何も変わっていない」と嘆息する人もいれば、「とにかく早くここから出て行け」と怒鳴る人もいる。
 最後に全員で「オウム真理教出て行け!」とのシュプレヒコールを繰り返してから、住民たちはぞろぞろと帰途につく。

 これはなかなかつらい。綺麗事を言っているわけじゃない。あまりにも無茶苦茶すぎる。次女と三女の入学を取り消したのだって無茶苦茶だ。子どもはなにも関係ないし、次女と三女が入学したからっていったいなにがあるんだと。


 考えながら読んでいたので、その時その時に思ったことはほとんど忘れてしまった。というわけで、下巻にいきます。


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