読書感想ブログ

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【読書感想文】 夜釣十六/楽園 【第32回太宰治賞受賞作】【2017年刊行】

【あらすじ】
 「引き継いでもらいたいものがある」
 ――会ったこともない「祖父」から届いた一通の葉書。パチンコで稼ぎを食いつぶす警備員の圭太が遺産でももらえるかと出向いた先は、しかし、遠い昔に忘れ去られた廃鉱の窪地だった。コウモリのスープを食べ、南洋の花々に異常な愛情を注ぐ奇妙な老人に強いられて始まった共同生活。圭太の運命はいったいどこに向かうのか――。
(単行本帯引用)

【感想】
 戦争体験の継承。僕にとってみれば、日本が大日本帝國として世界を相手に大戦争を繰り広げていたということすら信じられない。小学生の頃に漫画のはだしのゲンを読んでも、ファンタジーの世界としか思えなかった。日本が世界に、とりわけアジアの国々になにをしたのかもわからない。在日と呼ばれる人たちがなぜ日本にいるのかもわからない。お国のため、天皇のために戦う気持ちがわからない。なぜそうなのかを考えるに、小中高の教科書でもさらりと流すだけで、そこに興味を持つということに後ろめたさを感じるようにしているからではないだろうか。あまりにも残酷すぎるので目を背けてしまう。

 今作に登場する祖父のように、今の平和な日本にするために大変な思いをした人がたくさんいたことは事実として理解できる。
 しかしどうしても、ファンタジーとして捉えてしまう。

 祖父は、引き継いでもらいたいものはヴィジャヤクスマ花だと言い、金目当てだった圭太はすぐに帰ろうとする。そんな圭太に、「圭太が二十三歳の時に戦争が始まり、オランダ領のバハギアという島国に着いた」と話し始める。

 この始まり方がいい。読み手は圭太と同じ状況なので、わけのわからない話が始まったぞと頁をめくる手が止まらなくなる。文章は改行が多く簡潔で読みやすい。

 祖父と圭太の話の間に、圭太が警備員として働いていた職場の話や学生時代のラグビー部の話、小さな診療所の女医と女児の話が挿入されている。これが、祖父自体や祖父の話すこと、廃鉱での生活に嫌悪と拒否を示していた圭太の気持ちが徐々に変わっていくことに効果的に働いている。

 残念なポイントを上げるとすれば、祖父の描写は多く、キャラクター自体が生き生きとしているのに、その他のキャラクター――特に女医の凛子がよくわからなくて興味が出ない。興味が出ないので、終盤の流れについていけなくなった。

 テーマが大きい分ライトに仕上げているのは、様々な人に読んでもらいたいからだろう、と好意的に捉えておく。

 最後にどうでもいい話を一言。
 この筆名でこの内容だと、六十代以上の年配の男性が書いたものだと勘違いされそうだ。そして読み終えた後に作者の情報を読んで驚く。