【読書感想文】 岩井志麻子/現代百物語 【2009年刊行】
【概要】
【あらすじ】 (文庫本裏表紙引用)
屈託のない笑顔で嘘をつく男。出会い系サイトで知り合った奇妙な女。意外な才能を見せた女刑囚。詐欺師を騙す詐欺師。元風俗嬢が恐怖する客。殺人鬼を取り押さえた刑事。観光客を陥れるツアーガイド。全身くまなく改造する整形美女。特別な容姿をもっていると確信する男女たち……。いつかどこかで耳にした、そこはかとなく不安で妙な話。実際に著者が体験、伝聞した実話をもとに、百物語形式で描く書き下ろし現代怪談!
【感想】
シリーズで続いている話もあるとのことなので、一作目から読むことにした。怖いというより不安になる。見開き二頁で完結する短さなので、とても気軽に読める。短い時間に二つ、三つ。
こういうのは雰囲気作りから入って、「うひょー」って思いながら読むのがいいね。第二弾にも期待。
【読書感想文】 室井佑月/ああ~ん、あんあん 【2004年刊行】
【概要】
言わずと知れた室井佑月氏のエッセイ集。
【あらすじ】 (裏表紙引用)
恋愛したし、結婚したし、子どもも産んだし……慌ただしく実現された、女の夢。お次はなんじゃい!? 「愛こそ、すべて」の信念で突っ走る新・恋愛教祖の本音爆裂エッセイ。
【感想】
初室井佑月本でした。
三十歳の室井佑月氏と二十歳年上のダーリンこと高橋源一郎氏との結婚生活を描いたエッセイ。
まあ正直なところそんなに面白くはない。たまにいい回がある程度で、あとは室井氏の惚気や友人とのこと、飲みについて。
結婚して妊娠した頃から安定して面白くなっていく。
室井氏と高橋氏の夫婦漫才のようなやりとりは読んでいて微笑ましいし、自由に人生を楽しんでいる室井氏の姿は読んでいてとても元気をもらえるし、高橋氏の異常なほどの優しさにはとても驚かされる。
そして、文庫本あとがきで驚愕する。ここまでのすべてのエッセイが壮大な前フリだったということに気づく。無数に散りばめられていた伏線が一気にここで回収される。
これはエッセイではない。一大スペクタクルの長編小説だ。ミステリだ。私小説だ。
正直いって途中何度も挫折しかけた。もう読むのやめようかなと何度も思った。だからあえて最後を述べておくことにした。
さすがに前フリが長すぎる。もう少しコンパクトに整理されていれば傑作になっただろうに。
【読書感想文】 佐伯一麦/石の肺―僕のアスベスト履歴書 【2009年刊行】
【概要】
【あらすじ】 (文庫本裏表紙引用)
文学を志す青年は妻子を養うため電気工となった。親方の指導の下、一人前の職人へと成長し、文学賞を受賞する──。胸の疼痛、止まらぬ咳、熱、重い疲労感。アスベスト(石綿)の尖鋭な繊維は青年の肺の奥深くに根を張りはじめていた。それは後にガンを発病させる「静かな時限爆弾」と呼ばれる悪魔の建材であった。黙したまま苦しむ全国の仲間へ、生きる勇気を贈る感動のノンフィクション。
【感想】
正直な話、アスベスト被害はなんとなく知っている程度のものだった。教科書で読んだような気もする。おそらく公害病なのだろう。
なので、佐伯一麦氏が書いていなかったら読んでいなかったと思う。
タイトルにもあるように、氏がどのようにしてアスベスト被害にあったのかが詳しく描かれている。氏が私小説家だからだろうか、ここがとても興味深い。
アスベストまみれになって作業をする。咳が止まらなくなる。濃い痰が出始める。しかしその作業をしなければ仕事にならないし、職人たちに危険だと訴えたところで「臆病者」呼ばわりされ、陰湿ないじめを受けるだけ。病院に行きたいが日給月給で休めば給料が減る上に養わねばならない家族もいる。作家になるために小説も書きたい。
咳と発熱で仕事もままならなくなる。収入が減り家の中がきしみ始める。入院費や治療費、住宅ローンの支払いが滞り借金に手を出す。そして鬱になり自殺未遂を経験する。
ア・ルース・ボーイやショート・サーキットを読んでいたので、重複する点もあったが、そちらは私小説でこちらはルポルタージュなので別物として興味深く読んだ。
アスベストは万能。それが肺に突き刺さり気管支喘息、肺癌、中皮腫になり苦しみながら死んでいく。いつ発症するかはわからない。静かな時限爆弾。読んでいて恐怖を感じた。
アスベストが危険だと知っていたのに国は使用を推奨し、下請けや孫請けの職人や日雇い労働者がアスベストまみれの中を作業し使い捨てられる。
アスベスト除去の仕事が、これから伸びる産業だと言われる。
後半のインタビューで、ほかに産業のない貧しい地域はアスベスト工場を拒否できない。工場で働いていなくても、工場から毎日大量に外に出されるアスベストを吸って、家族や地域の人たちまでも被害を受けて苦しみながら死んでいく。
読んでいて怖いし、悲しいし、怒りを抱く。そしてなんだかデジャヴを覚える。ものは違えど同じことが繰り返されている。
【読書感想文】 東野圭吾/禁断の魔術 【2015年刊行】
【概要】
言わずと知れた東野圭吾氏のガリレオ・シリーズ第八弾、現時点での最終作。
【あらすじ】 (Wikipedia引用)
ある年の5月、一人の青年・古芝伸吾が理工学部物理学科第十三研究室を訪れる。伸吾は高校時代に湯川から科学を学び、その魅力に感銘を受けて帝都大学を受験、合格を果たし、湯川のもとへ挨拶にやって来たのだ。しかしその日、伸吾の姉が都内のホテルで死亡した。
約10ヶ月後の3月、一人のフリーライターが殺害される事件が発生した。容疑者として捜査線に浮上したのは、湯川の教え子・小芝伸吾であった。伸吾は10か月前に帝都大学を退学し、金属加工品製造会社へ入社したが、現在は行方不明であった。さらに、警察が捜査を進める過程で、古芝伸吾が殺人を計画していることが判明する。しかも殺人方法は、かつて湯川に教わった技術を改良したもので、すべては姉の敵討ちに起因していた。
【感想】
元になった短編は読んでいません。その上での感想です。
一気読みでした。湯川の愛弟子が登場。かつて湯川に教わった技術を改良したもので姉の復讐に燃える。それに草薙や薫、そして湯川はどう動くのか。
政治家の件についてはこの結末が一番ベターだろうね。それを変えちゃうとファンタジーになってしまう。でもせめて秘書ぐらい……。
終盤の湯川と古芝の駆け引きは緊張感があってとてもよかった。超人化が止まらない湯川だったが、人間臭いところはありつつもやはり超人だった。
科学技術は邪悪な人間の手にかかれば禁断の魔術となる。
結末もなかなか愉快でよろしい。シリーズ読み終えた。実写版は観ていないので、僕の中での湯川のイメージは漫画コウノドリの四宮先生だった。
【読書感想文】 東野圭吾/虚像の道化師 【2015年刊行】
【概要】
言わずと知れた東野圭吾氏のガリレオ・シリーズ第七弾。
単行本でリリースされた虚像の道化師 ガリレオ7と禁断の魔術 ガリレオ8を一冊にまとめたもの。
【あらすじ】
長くなるのでウィキペディアを見てください。
【感想】
短編集としては最後のガリレオ。ガリレオは長編もいいけれど、短編のほうが好きかな。事件起きる! はい解決! 事件起きる! はい解決! と短くテンポがいいので軽く読める。
しかしまあ、シリーズものとしては仕方がない話ではあるが、湯川がどんどん超人になっていっている。すぐに怪しんですぐに気づく。たいそれた実験もほとんどない。草薙も内海薫もちょい役。
次作の禁断の魔術でシリーズ終了、最後の長編らしいので期待している。こういうことは言いたくないが、巻を重ねるごとにどんどん面白さは減っていっているな……。
【読書感想文】 貴志祐介/クリムゾンの迷宮 【1999年刊行】
【概要】
言わずと知れた貴志祐介氏のデス・ゲーム小説。
【あらすじ】 (裏表紙引用)
藤木芳彦は、この世のものとは思えない異様な光景のなかで目覚めた。視界一面を、深紅色に濡れ光る奇岩の連なりが覆っている。ここはどこなんだ? 傍らに置かれた携帯用ゲーム機が、メッセージを映し出す。「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された……」それは、血で血を洗う凄惨なゼロサム・ゲームの始まりだった。
『黒い家』で圧倒的な評価を得た著者が、綿密な取材と斬新な着想で、日本ホラー界の新たな地平を切り拓く、傑作長編。
【感想】
とりあえず、とてもおもしろかった。ずっと読んでいた。特に後半の鬼ごっこはたまらない。緊張感が爆発していた。
馬鹿みたいにあふれかえっているデス・ゲームもののはしり。バトル・ロワイアルもまだ出ていない時代の話。
貴志祐介氏の小説は高校のときに青の炎を読んで以来だったのでかなり久しぶりだった。青の炎は友人に勧められて読んでとても感動した。映画も観たっけな。
でもそもそもがホラー作家というわけで、評価のよいこれを読んでみたわけだ。
一度読み始めたらなかなか中断できない。キャラクターも生き生きとしているし、なによりスリルがたまらない。ほかの作品も読んでみたいと思った。
が、落ちは酷い。正直文庫本を床に叩きつけそうになった。