読書感想ブログ

感想文をバシバシガシガシ書きます。

【読書感想文】 元少年A/絶歌 【2015年刊行】

 神戸連続児童殺傷事件、通称酒鬼薔薇聖斗事件を起こした元少年Aの手記。僕は兵庫県出身で、この事件が起きた時は十歳前後だった。事件が起きて犯人が捕まった後も学校も地域もかなりピリピリしていて、集団での登下校の際、父兄ががっちりとついていたことを覚えている。

 そういえば、冤罪説も騒がれていた。

 これまでずっと沈黙していた犯人が書いた手記とあって、言い方は悪いが、かなり期待して読んだ。そして、その期待は百パーセント裏切られることとなった。


【問題点】
・第一部と第二部の文章に、あまりにも差がありすぎる。

 第一部は、事件を起こして逮捕され医療少年院での暮らしが書いてある。殺人シーンが気持ち悪い。ハセ君の首を切断して校門に飾るところなんて、「月光の愛液」だの「蠢動」だの「游ぐ」だの「下界の処女膜」だの、「雨は空の舌となって大地を舐めた。僕は上を向いて舌を突き出し、空と深く接吻した」だの、「打擲した」だの、「寂寥の谷」だの、「雑駁な欲望の廃棄場」だの、殺人シーンを芸術にしたいのだろうという気持ちがとても伝わってきた。


・本名を晒さず、元少年Aという名前で出版したこと

 自分の思いや歩んできた道を文章にしたい、そうしないと精神が崩壊してしまう。だから被害者の家族に無断で出版したことを許してくれ。無機質で生きることをなんとも思わず、挙げ句の果てに二人の命を奪った自分が、生きることの素晴らしさに気づいた。
 小説を書いたり、クリエイティヴなことをしたい。

 と書いてあるが、元少年Aという筆名である限り、自分は守られた安全な世界でのうのうと生きていることは放棄しないが、自分の思いや自分が歩んできた道を文章にしたいなんて、ただのマスターベーションでしかない。


・第二部の治療後の生活に反省が感じられない

 「罪の意識に苛まされて暮らすの大変! 誰かに守ってもらうの嫌だから自立する! でも就活厳しい! やっと仕事に就いても理不尽なことばかり! 人と仲良くなるの嫌だから職場でもコミニュケーションしないから嫌われる! 両親や兄弟ごめんなさい! あの二つの事件思い出すと吐きそうになる! 辛い! 毎年遺族に手紙送ってたら、徐々に許して貰えてる!」

 ふざけるなと思ってしまう。


【よかった点】
 元少年Aの家族の思いには涙が出た。「なにがあっても、お前は俺の子だ」、「Aが兄でよかったと思っている」など、元少年Aの視点から見ても涙してしまうし、親や兄弟からの視点から見ても涙してしまう。治療が終わった後、家族でまた暮らさないかと言われたことに元少年Aが反対した理由にも涙してしまう。が、問題点にも書いた通り、元少年Aは心の底から反省しているわけではない、ということが露呈してしまっているので、そういった家族からの温かい言葉も、元少年Aにはなんの意味もなさなかったように思えた。

【映画感想文】 チャド・スタエルスキ/ジョン・ウィック R-15【2015年公開】

 なんの無駄もなく、始まりから終わりまで一気に駆け抜けて、主演のキアヌ・リーヴスの格好よさがつまりにつまった、素晴らしい映画だった。

【概要】
 かつて裏社会にその名を轟かせた凄腕の殺し屋ジョン・ウィックは、5年前に最愛の女性ヘレンと出会い足を洗う。平穏な結婚生活を送るジョンであったがヘレンが病で亡くなり、生きる希望を失う。だが、ヘレンは残される夫を心配して仔犬を手配しており、その存在がジョンの新たな希望となりつつあった。その矢先、ジョンの愛車フォード・マスタング・マッハ1を狙った強盗に家を襲われ、車を奪われただけではなく仔犬も殺されてしまう。大事なものを再度失ったジョンは、復讐のため、裏社会へ戻ることを決意する。
 Wikipedia参照。


【感想】
 キアヌ・リーヴス演じるジョン・ウィックが寡黙でスマートで格好いい。確実に頭打ち抜いて殺す容赦なさもいい。序盤からバスバス、バスバスと人を殺しまくりで、あまりの無双っぷりに笑ってしまった。ナイフがじわじわと刺さるシーンがいくつもあったので、そこは少し目をそらした。R-15だからね。

 登場人物のほとんどがスマートかつ冷酷非道な残虐者で、特にウィレム・デフォー演じるマーカスが素晴らしい。サム・ライミスパイダーマンでゴブリンを演じたあの方。

 でも、エイドリアンヌ・パリッキ演じるミズ・パーキンズはなにがしたかったのだろう?

 吹き替えで観たわけだが、ミカエル・ニクヴィスト演じるウィゴ・タラソフの吹き替えが堀内賢雄氏で、どうも僕はフルハウスジェシーおいたんの声を聞いて育ってきたもので、落ち着いた冷酷非道なボスの吹き替えを見事に演じていて、やっぱり声優の方ってすごいなと思ったね。


 こんなのもう、文句なしのパーフェクツな映画だわ。なんの文句もないしマイナス・ポイントも一つもない。

 マトリックスでは髭の剃り後ですら格好良かったキアヌ・リーヴスが、もさっと生やした髭面ですら格好良いキアヌ・リーヴスになっていた。やっぱりキアヌ、格好よすぎだわ。すごい。

【読書感想文】 文村上春樹・絵安西水丸/村上朝日堂超短篇小説 夜のくもざる 【1998年刊行】

 シュールな内容の掌編が三十六編収録した掌編集。意味とか考えちゃ駄目で、感じるままに読むのがいいでしょうな。だって本当に意味不明なんだもの。小説も、絵も。

 例えば……と挙げるとネタバレになってしまうし、村上春樹氏も言っているように、ライトな物語に安西水丸氏のライトなイラストが載っていて、すぐに読み終わると思う。

 残念ながら安西水丸氏は鬼籍に入られたので、このコンビのものはもう読むことは叶わないわけだが……。

【読書感想文】 歌野晶午/葉桜の季節に君を想うということ 【2007年刊行】

 読みやすい文章で複数の話を混ぜながら進めるため、先が気になって仕方がなく、二日程度で読み終えてしまった。こういうのが徹夜本というんだな。

 まぁ、なんというか、とてもよかった。スリル満点で、これぞミステリだね。

【映画感想文】 コーエン兄弟/ノーカントリー 【2008年公開】

 恥ずかしながらなんですけれども、コーエン兄弟の映画はこれが始めてでした。監督自体の名前は知ってるし、この映画のタイトルも知ってるし、積読棚にはコーマック・マッカーシーの血と暴力の国がなぜか並んでいる。なんで並んでいるんだろう。おそらく、ノーカントリーを調べた時に原作があると知って、映画を観る前に原作を読もうなんてことを思ったんだろう。いつ買ったのかもわからないし、いつから棚に並んでいるのかもわからない。


 この映画はまぁ簡単に言っちゃうと、ハンティングを楽しんでたジョシュ・ブローリン演じるルウェリン・モスというベトナム帰還兵のおじさんは、偶然殺人現場に遭遇してしまう。どうやら、麻薬取引をしていたがなんらかのトラブルがあり、殺し合いをしてしまったようだ。なんとそこには大金が手付かずで残っており、モスはそれを持って帰る。

 そして、ギャングから金の発見を請け負った殺し屋ハビエル・バルデム演じるアントン・シガーとの、命を賭けた追いかけっこが始まる。


 常に緊張感のある追いかけっこで、銃はぶっ放すわモスは嫁が心配だわシガーはばかすかと人を殺しまくるわ、ひりひりする。シガーが持っている武器が家畜銃というもので、空気圧で鍵穴を撃ち抜く。時代設定が八〇年代なので古臭いファッション。モスは口ひげ生やした色気のあるダンディで、シガーはマッシュルーム・カットの無表情で冷徹な殺人鬼。


 なんとなくで観ていても面白い映画だろう。様々なカットに情報がてんこ盛りなので、逃さず目を凝らして観るのも楽しい。無駄が一つもない。常に緊張させているというわけではなく、トミー・リー・ジョーンズ演じる保安官エドトム・ベルとその助手の笑いを誘うやり取りが間に入って緩和させている。


 でもさぁ……ラスト、なに? 解説とか読んだけれど、いまいち釈然としない。解釈なんだろうね。誰かと一緒に観て、観終わった後にああだのこうだの言い合うのが楽しい映画。まあ僕は一人で観ましたがね。


【モスの嫁役のケリー・マクドナルドがスーパー可愛い度】 ★★★★★
【今のケリー・マクドナルドも色気ばっちりだよね度】   ★★★★★
コーエン兄弟の映画、これから色々観ようと思った度】  ★★★★★

【総合】 ラストがなぁ……。              ★★★★☆

【読書感想文】 村上春樹/カンガルー日和 【1986年刊行】

 村上春樹氏の掌編集。どうでもいい話だが、文庫本の刊行年が僕の生まれた歳だった。七十九刷だって。


 不思議でおかしくて笑えて切なくて意味がわからなくて……。いつもの村上春樹節が詰まりに詰まった掌編が十七編。プラス短編が一編。

 深く考えちゃいけないね。明確な落ちとか相変わらずないので、そこに漂う空気や雰囲気を感じつつ読むのがいいと思う。掌編集だからといって、星新一氏みたいなのを思い浮かべちゃいけないね。それを期待して読むと、下手すると怒り狂って文庫本を壁に思いっきり投げつけてしまうかもしれない。

 それで思い出したが、僕が結構ファンでいろいろ読んでいた某エンタメ作家氏の某作は、あまりのつまらなさに腹が立って壁に走ったゴキブリめがけて投げつけてそのまま捨てた。


 本当に、意味不明だからね。全然理解できない。だから解説もできないし感想もほとんど言えやしない。でも、腹の立つ意味不明さではなく、とても気持ちのいい意味不明さ。心地のよい文章と不思議な話に浸って、のんびりのんびり、一日一遍読む感じで、楽しんでください。

【読書感想文】 高橋源一郎/さよならクリストファー・ロビン 【2012年刊行】

 連作集。高橋氏は連作が好きだね。筒井康隆氏も創作の極意と掟の中で、連作が合っていると評価していた。

 この作品の前年にはかの問題作恋する原発を書いていたわけで。毎度毎度、小説ごとの作風の変化具合に驚かされる。

 うーむしかし、どういう感想を書けばいいのだろう。

 抽象的な物語が続くわけなんだけれど、全体的に哀しい空気が漂っていて、とても切ない。でも、それは一体なんなの? と訊かれると、返答に困ってしまう。

 なにかを感じられれば入り込んで頁をめくるのももどかしくなるだろう。なにも感じなければ退屈だろう。

 まあやっぱりあれだな、子どもを描かせたら天下一品だな。本当に。