読書感想ブログ

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【読書感想文】 佐伯一麦/石の肺―僕のアスベスト履歴書 【2009年刊行】

【概要】

 言わずと知れた佐伯一麦氏のアスベスト被害のルポルタージュ


【あらすじ】 (文庫本裏表紙引用)

 文学を志す青年は妻子を養うため電気工となった。親方の指導の下、一人前の職人へと成長し、文学賞を受賞する──。胸の疼痛、止まらぬ咳、熱、重い疲労感。アスベスト(石綿)の尖鋭な繊維は青年の肺の奥深くに根を張りはじめていた。それは後にガンを発病させる「静かな時限爆弾」と呼ばれる悪魔の建材であった。黙したまま苦しむ全国の仲間へ、生きる勇気を贈る感動のノンフィクション。


【感想】

 正直な話、アスベスト被害はなんとなく知っている程度のものだった。教科書で読んだような気もする。おそらく公害病なのだろう。
 なので、佐伯一麦氏が書いていなかったら読んでいなかったと思う。

 タイトルにもあるように、氏がどのようにしてアスベスト被害にあったのかが詳しく描かれている。氏が私小説家だからだろうか、ここがとても興味深い。

 アスベストまみれになって作業をする。咳が止まらなくなる。濃い痰が出始める。しかしその作業をしなければ仕事にならないし、職人たちに危険だと訴えたところで「臆病者」呼ばわりされ、陰湿ないじめを受けるだけ。病院に行きたいが日給月給で休めば給料が減る上に養わねばならない家族もいる。作家になるために小説も書きたい。
 咳と発熱で仕事もままならなくなる。収入が減り家の中がきしみ始める。入院費や治療費、住宅ローンの支払いが滞り借金に手を出す。そして鬱になり自殺未遂を経験する。

 ア・ルース・ボーイやショート・サーキットを読んでいたので、重複する点もあったが、そちらは私小説でこちらはルポルタージュなので別物として興味深く読んだ。

 アスベストは万能。それが肺に突き刺さり気管支喘息、肺癌、中皮腫になり苦しみながら死んでいく。いつ発症するかはわからない。静かな時限爆弾。読んでいて恐怖を感じた。

 アスベストが危険だと知っていたのに国は使用を推奨し、下請けや孫請けの職人や日雇い労働者がアスベストまみれの中を作業し使い捨てられる。
 アスベスト除去の仕事が、これから伸びる産業だと言われる。

 後半のインタビューで、ほかに産業のない貧しい地域はアスベスト工場を拒否できない。工場で働いていなくても、工場から毎日大量に外に出されるアスベストを吸って、家族や地域の人たちまでも被害を受けて苦しみながら死んでいく。

 読んでいて怖いし、悲しいし、怒りを抱く。そしてなんだかデジャヴを覚える。ものは違えど同じことが繰り返されている。


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