【読書感想文】 西村賢太/夜更けの川に落葉は流れて 【2018年刊行】
三作からなる短編集。まったくもう、期待を裏切らない面白さだこと。
寿司乞食(小説新潮二〇十六年一月号掲載)
【概要】
日雇い労働へ行く、一日分の給料をその日に使い果たす、次の日また日雇い労働へ行く――
北町貫多二十二歳、そんな無計画な生活を立て直すべく、前から働いてみたかったという築地でのバイトを探す。これまでに二度立て直しの失敗を経験しているため、今回は失敗は許されない。
週払いで未経験可、運転免許も不要、そしてなにより憧れであった築地での仕事に見事に受かり、初日を終え、同じ日に入った久保坂とともに会社の歓迎会に参加する。そこで貫多はいつものようにしこたま酒を呑んでしまい……。
【感想】
これまでの人足仕事とはなにもかもが違った、絶対に離せない職場。久しぶりに人とわいわい酒を呑んで楽しくなり、ついつい呑むペースを早めてしまう。とてもわかる。僕はこの短編の最初から最後までとまったく同じ経験をしたことがある。
酒は呑まないに越したことはない。断酒して一年経ってわかったことです。
夜更けの川に落葉は流れて
【概要】
生きていれば。生きていればいつか逆転のチャンスがあるはずだ――
北町貫多、二十四歳にして日雇い人足。同級生より八年も先に社会に出ておきながらこの体たらく。いいことなんてなにもない。もう、どうでもいい。自分の見た目も気にならず、人のことも気にならず、なにもかも投げやりになっていた。
仕事場で知り合った人に呑みに誘うこともなくなった貫多は、いっときの転職として警備の短期バイトに勤しんでいた。まさかそこで人生の逆転のチャンスがあったとは……。
【感想】
佳穂になっているが、いつもの秋恵。しかし、とても幸せな恋愛描写が繰り広げられる。読んでいて恥ずかしくなるほどのそれが、いったいいつ崩壊するのかと期待して読んでいた。
いやーでも、わかるなぁ。僕も若い頃、いざ別れるとなった時に「じゃあこれまで奢った金を返せ!」とか言ってたよなぁ。
あともう一つ、僕も若い頃、このまま支払わずに逃げてやろうと思ったら見事に捕まり、拉致られ、タコ部屋に入れられそうになったことがある。だからその恐怖はよく理解できた。
あとはまぁ、いざ恋愛が始まって相手のことが好きになったら、欠点だろうがなんだろうが好きになっちゃうのに、好きじゃなくなった瞬間に一週間放置した生ゴミみたいに見えちゃうってのもすごーいわかる。暴言も吐いちゃうよねぇ。
青痰麺
【概要】
とても短いから説明しちゃうとそれで終わっちゃう。だからまあ簡単に述べると、復讐劇。ラーメン屋の店主に対する、十何年間にも渡る復讐劇。
【感想】
いやー、この後どうなったんだろう? これはキツイね! もう最悪じゃない。わかるんだけれど、ここまですると覚えられちゃうわな。それがまさかラストでこうなるとはね。
【追記】
「相も変わらず買淫にいそしむチンポの進歩のなさ」は名パンチ・ライン。
「ねえ、誰を待ってんの? オラと出産を前提としたセックスしてみない?」なんて、普通の脳みそじゃ思いつかない。