RETSUDAN SENSEIの感想文

感想文をバシバシガシガシ書きます。

【読書感想文】 村上春樹/東京奇譚集 【2007年刊行】

【概要】
 五編からなる短編集。外れなし。
 一つずつ感想を書く。


【偶然の旅人】
【あらすじ】
 彼はピアノの調律師をしている。41歳でゲイである。三歳下のボーイフレンドがいるが、別々に暮らしている。
 彼は火曜日になると車で神奈川県にあるアウトレット・ショッピング・モールに行く。モールの中にある書店に入って、本を買い求め、書店の一角に設けられたカフェでコーヒーを飲みながら本を読むのがいつもの過ごし方だった。
 その火曜日の朝、彼はディッケンズの『荒涼館』を読んでいた。洗面所から席に戻ると、隣のテーブルで同じように本を読んでいた女性が彼に声をかけてきた。
 「今お読みになっておられるご本なんですが、それはひょっとしてディッケンズじゃありませんか?」
 偶然にも二人がそのとき読んでいたものは同じ著者の同じ本だった。翌週の火曜日、彼がカフェで本を読んでいると彼女がやってきた。そしてそれぞれに黙々と『荒涼館』を読んだ。

【感想】 ★★★★☆
 春樹氏作品によく出てくるようなキャラクターの主人公だが、今回はゲイ。たまたま同じカフェでたまたま同じ本を読んでいたというありえない偶然が起きるというところがよい。しかし悲しいかな、前述した通り主人公はゲイだ。
 そこから主人公が同性愛者だということで疎遠になってしまった姉の話が出てきて、物語はぐんぐん加速していく。


【ハナレイ・ベイ】
【あらすじ】
 サチの息子は19歳のときに、カウアイ島のハナレイ湾でサーフィン中に鮫に右脚を食いちぎられて死んだ。サチはハワイへ飛んだ。現地で火葬を済ませ、一週間ハナレイの町に滞在した。それ以来サチは毎年息子の命日の少し前にハナレイを訪れ、三週間ばかり滞在するようになった。それを10年以上続けている。
 ある日、リフエ空港の帰りにサチはヒッチハイクをしている日本人の若者二人を拾う。
 6日後、サチがハナレイのレストランでピアノを弾いていると、ヒッチハイクの二人組がやってきた。彼らは片脚の日本人のサーファーを二度見かけたという。それからサチは息子に会うためビーチをさまよう

【感想】 ★★★★☆
 主人公が息子を亡くすという、今までの春樹氏ではなかったパターンのお話。息子の命日に息子が亡くなった場所で一週間過ごすというのが切ない。
 しかし、記憶の中で息子を美化するということもないし、息子が亡くなったことを嘆くというのもあまりない。それなのに悲しさや切なさが漂っている。
 だからこそ、読むのがつらかった。


【どこであれそれが見つかりそうな場所で】
【あらすじ】
 義父は寺の住職をしていたが、彼の一人息子はあとを継がず、メリルリンチに勤めている。その後義母は、女とその夫の住むのマンションに越してきた。女は夫と26階に住んでいる。義母は24階に住むことになった。
 9月3日、日曜日。朝10時に義母から電話がかかる。夫は髭も剃らずに2階下まで様子を見に行った。そして夫はそのまま消えてしまった。

【感想】 ★★★★★
 主人公が女に、疾走した夫を探すよう頼むという、まるで探偵小説のような始まり方。夫に関するなにかを探しに、マンションの階段を歩き続ける。老人に会ったり女児に会ったり。
 果たして夫はどこへ行ったのだろうか、と思いながら読んでいたので、頁をめくる手が止まらなかった。
 今回の短編集では一番読後感がよかったと思った。


【日々移動する腎臓のかたちをした石】
【あらすじ】
 淳平は16歳のとき、父親から「男が一生に出会う中で、本当に意味を持つ女は三人しかいない」と言われた。以来、淳平は新しい女性と知り合うたびに、この女は自分にとって本当の意味を持つ相手なのだろうかと自問することになった。
 淳平は18歳のときに家を離れ、何人かの女性とつきあった。そのうちの一人は彼にとって「本当の意味を持つ」女性だったが、彼女はもう母親になっている。
 小さいころからやりたかった職業である小説家になった。現在31歳で、短編集を2冊、翻訳書を1冊上梓している。芥川賞の候補に4回選ばれた。
 パーティーで、キリエという名の女性と知り合う。キリエは淳平と同じで、小さい頃からやりたいと思っていたことを職業にしたという。
 そして淳平とキリエは惹かれ合っていく。

【感想】 ★★★★☆
 思春期に父親にそんなことを言われたら堪んないよな。三人だけだと限定しているから、淳平は女性に対して身構えてしまう。
 キリエは魅力的だが不思議なヒロインで、なんの仕事をしているかということは絶対に淳平に言わない。
 淳平は書きかけの小説をキリエに話す。その小説のタイトルこそが、日々移動する~だ。


品川猿
【あらすじ】
 大田区にあるホンダの販売店に勤める安藤みずき(結婚前の名前は「大沢みずき」)は、1年ばかり前からときどき自分の名前が思い出せなくなった。相手から出し抜けに名前を尋ねられると、頭の中が空白になってしまう。名前がどうやっても出てこない。
 ある日、みずきはカウンセラーの坂木哲子の面談を受ける。坂木に「名前に関連して思い出せる出来事はあるか」と問われ、高校生のとき1学年下だった松中優子という生徒に関する、あるエピソードを思い出す。

【感想】 ★★★★☆
 時々自分の名前が思い出せなくなってしまったという奇妙な悩みを持つみずき。カウンセラーの坂木と毎週話し合い、なぜ思い出せなくなってしまったのかを解明していく。
 そしてそこに、みずきと松中優子との話が絡み合う。
 品川猿に関しては、あまり詳しく述べるとネタバレになってしまうのでやめておく。
 


【総括】
 外れがなく、すべてが読ませる力があり、なにより面白い。いつもの春樹節が感じられる。当然さっぱり意味がわからなかったり謎は残ったままだし意味ありあげな伏線はすべて無視されており、実際に読むと、これはなんの意味なのだろう? と考えてしまう。星はすべて五にしようと思ったが、それもなんだかあれなのでやめておいた。
 そしてこれもいつものことだが、読後感がとてもいい。
 しかし、春樹氏の本を読んでみようかなと思っている人にはあまりおすすめできないかな。やはり風の歌を聴けから読んだほうがいいと思う。