【読書感想文】【小説】 石田衣良/池袋ウエスト・ゲート・パークⅫ 西一番街ブラックバイト
再始動が嬉しい。一つづつ感想文をつける。
西池第二スクールギャラリー
マコトの元に、同級生のサエコがやってくる。サエコは和菓子屋岡久の一人娘で、使われなくなった小学校をギャラリーにしている。そこに置かれていた、小門屋という男の作品を何者かに壊されたので、その犯人を突き止めて欲しいと頼む。
小門屋の設定がよかった。三十歳まで建築現場で働き、三十歳の誕生日の日に、自分の誕生日を祝ってくれる人もいない。このまま歳を重ねていくだけの人生は嫌だと、小学校時代に唯一褒められた工作でなにか結果を出したい、と考えている。
最初は三年間だけという期間を決めていたが、気づけば九年経ち、三十九歳。
流れを読んでいく内に、おそらく今回のオチはこうじゃないか? とぼんやり思っていた。しかし全然異なる方向からそれはやってきた。
流れるような、必要最低限だけの無駄のない文体と内容は十二巻目でも変わらず。とても面白かった。
ユーチューバー@芸術劇場
マコトの元に、ユーチューバーの140★流星がやってくる。過激派ユーチューバーの戸田橋デストロイヤーZの集団が、140★流星をターゲットにし、三周年記念の動画撮影を台無しにしてやる、と脅迫する。それを解決するのが今回のお話。
短いのに読み応えはたっぷりだった。
ユーチューバーを安易に批判するような内容ではなく、認めつつも、考え方が違う程度に押さえている。
140★流星の、ユーチューバーとして生計を立てる大変さも入っている。
そしてなにより、話が二転三転する。やっぱりミステリのシリーズなんだなと思わせる。
タカシらGボーイズも活躍するので、タカシのファンもお楽しみに。
立教通り整形シンジケート
マコトの元に、絶対にマスクを外さないスズカという美女がやってくる。ストーカーの被害にあっていると相談を受ける。そこへ、ゲイの美容院の店長、整形被害の話が絡んでくる。
同じくかなり短い。しかし中身は濃い。
単なる整形被害ではなく、女性のコンプレックスを食い物にし、整形中毒に仕立て上げ、金を巻き上げる。
そしてそこへ、スズカのストーカーが絡み、物語は盛り上がる。
西一番街ブラックバイト
マコトの耳元に、破格の安さを売りにするOKという外食店数件の売り子の叫び声が入る。そこで働くマサルという若者に会い、OKの凄惨なブラック内情を聞く。同時にタカシから、「OKに入社したGボーイズから苦情が殺到している」という話が入る。
ある日、飛び降り自殺の現場に遭遇する。その若者は、マサルの地元の後輩で、マサルがOKへの入社を勧めたミツキという若者だった。
そこから、マコトとタカシ率いるGボーイズ、バイクのひったくり犯、OKというブラック企業とどこにも属さない武闘派の集団と、物語が交錯してゆく。
タイトルのお話。四つの中で一番長い。しかも今回の敵は、池袋にチェーンを広げ、慈善事業にも手を出す大手企業。
個人的に、一番盛り上がる話だった。様々な人物や立場がイ力んでいるのに、相変わらずのスマートな文体で読みやすく、それぞれのキャラもきちんと立っていて、徐々に膨らみを増す物語を追うように頁をめくっていた。
やはり池袋シリーズはスタイリッシュで爽快感があり、テンポもよく、キャラも立っていて、本当にエンターテイメントの見本のような作品。
そして気づいた点が二つ。
一つは、シリーズのどの話にも、マコトが読み手に、「あんた」と呼びかける場所がある。たったそれだけの言葉で、物語に没入するリアリティを与えている。読者は今まさに、マコトと一緒に事件を追い、マコトと一緒に思考をこねくり回し、マコトと一緒に事件の解決を見届ける。
この爽快感がたまらない。
もう一つは、いつまでたっても彼女の出来ないマコトがなにかあるたびにタカシといちゃいちゃするのは、腐女子ウケを狙っているのではないだろうか、という点。