読書感想ブログ

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【読書感想】 西村賢太/棺に跨る 感想

 久しぶりに西村賢太氏の小説を読んだけど、今まで通り、読み易くてところどころ笑えて、読後感はスッキリというモノに仕上がっている。今作は秋恵シリーズ完結の連作という事で、四編全てが秋恵との間で起こる色々を描いている。
 病的オリモノだとか手コキリクエストだとか経血臭い馬鹿女だとか、無茶苦茶な言葉にクスリとさせられる。
 で、一つ一つ感想を付けようかと思ったけど、これは四編で一つの長編になっているようでもあるので、纏めようかな……と書きだしたけど、やっぱり一つ一つ感想する事にする。どないやねん。

棺に跨る
 表題作であり、最後の破鏡前夜へと繋がるインタールードのような物。貫多がいつものように秋恵の天然めいた発言によりカチンと来て暴言と暴力でもって彼女を痛めつける。それまでは良かった――いやよかないか――んだけど、つい放った足蹴が秋恵の腹奥に入り、軟い肋骨に入ってしまい、ヒビが入る。貫多はこれまでに二度暴力事件でお灸をすえられているので、今回のこのDV事件が明るみに出ると、然るべきところへブチ込まれてしまう。だから何とかして秋ちゃんの機嫌を良くしないと……。
 それがこの四編にわたる色々の元凶となる。

脳内の冥路
 秋ちゃんの機嫌を良くしてまた元の関係に戻って、と願う貫多は、秋ちゃんを誘って野球観戦へ行く。貫多も秋ちゃんも野球が好きなので、これは良い手なんじゃないか? ……と頑張るけど、結局は、帰宅時に電車に乗って帰りたくないからタクシーで帰ろうと言う貫多と金が勿体ないからと嫌がる秋恵は、電車のホームで言い争いになる。
 それに加え面白いのが、席に着いた後まだ時間があるからと貫多が喫煙所に行って帰って来る時に、秋恵のもう一つの顔を見てしまうところ。これはちょっとショックだよなぁ。

豚の鮮血
 今回の原因となった、カツカレーを作った秋恵が、それをがつがつと食べる貫多に向かって「ブタみたいな食べ方してるね」という、別に貫多を怒らせようだとかそういう気は一切無く、前述したように単なる天然をブチかました……という出来事から、以前なら十日に一度は食卓に並んだカレーが出なくなったので、貫多は一つ思いつく。敢えて、そのタブー化されたカレーを出す事によって、傷口を曝け出し、回復が早くなるのではないか、と。
 スーパーへ行きカレーを作ると、パートから帰った秋恵は「キッチンに立つなんて珍しいね」と言ってくる。お、上手く行ったんじゃないか? と思わせながら、結局は秋恵が「ブタ肉ばっか入れてっから酸っぱいのよ」と言ってしまう。挙句、明日の為にと貫多がカレー鍋にシーチキンをぶちまけると「気持ち悪い」と言ってのけ、貫多をブチ切れさせてしまう。
 ここまで読んで、貫多のDVは当然悪いけど、秋恵にも原因があるんじゃないか、と思ってしまった。実際そういう文もある。そう思わせてしまうこの文章に、なんだか嫌になる。

破鏡前夜
 貫多が謝って謝って、なんやかんやで仲は修復した。いやー良かった良かった。貫多は久しぶりに一発ヤろうとするが、明日は師匠の月命日なんだからとやんわり断られる。仲が修復した事によって、一泊二日の間秋恵と離れるのがちょっと寂しいな……と思う貫多に、大切な事なんだから行ってきなさいよ、と言う。そうかぁ、これでまた元の鞘に収まったなぁ……。
 と、思わせておいて、最悪の結末を迎える。マ、マジっすかぁ……。まあ秋恵が貫多の暴力を許したのは、これがあったからなんだなぁ。


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