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文學界2016年5月号掲載 大西智子 『ぱちぱち』 感想

 此れは、普通に、面白かった。最初は「何だこの十季子とかいう主婦」とムカつき、「ミハシ可愛いなぁ」と思って読んでいたのだが、してやられた。物語がテンポ良く進み、文章は読み易く、賞を取ったのも頷けるな、と思った。
 情報もきちんと丁寧に必要な分だけ入ってくるから、何も考えなくても読み続けられる。此れは褒め言葉
 思ったのは、良く女同士の友情は軽いとか無いとかどうこう、と言うが、此れを読んでその通りだと思った。男尊女卑ではないが、女のクソさ加減が良く描けてる。
あと嫁姑の問題。僕は男だし独身だから全く分からないんだけど、嫁に意地悪する姑だって昔は姑に同じ事されてるのに、何で同じ事を繰り返すんだろう?
旦那に対する愛情が無くて子供に愛情を注ぐのは、ああ、女って怖ぇなって思った。
 最初こそ十季子とかいうクソ主婦なんだよ、ミハシ魅力的だなぁと思っていたが、結局二人とも根本的なところは同じなんだな、と思うと、女性二人のキャラクターに好感が持てた。

 でもいらないところが多すぎる。一つあげると、

>中学のころのミハシみたいに一人だ。

 っていうの。いちいち言わなくても分かってるって。だってそういう風に描いてるじゃん。
 後はもう、此の号に載ってる市街戦にも思ったんだけど、一人称の文体で三人称を書くのって流行ってるの? 普通に一人称にすればいいじゃん、と思った。

 ミハシみたいな女って、自由に生きてる感じがして良いのよね。
 僕の前にそんな女の子現れたら、ガチで狙うよ。

 何故僕がこんなに大西智子のぱちぱちを気に入ったのか……。分からない。

でも突き詰めていくと何か答えが出るかもしれない。と、一つ言葉が出てきた。僕は「切なさ」が大好きだ。僕のバイブルであるノルウェイの森やさようなら、ギャングたち、斜陽、西村賢太の作品群、全てにおいて共通するのは「切なさ」だ。
 すごく切ない。ミハシ、十季子、二人の生きている世界は三十になった今でこそ正反対だが、根本は同じだ。ミハシはヤンキーで馬鹿そうに見えるけれど、過去にキツイ過去を背負っている。しかもたくさん。十季子は結婚をし子供をもうけたが、夫との関係は冷め切り、姑は自分を子供を産む機械だとしか思わず、主婦という立場に疲れている。子供だけが生きがいだ。
 十季子だって十分に「切ない」。が、僕はミハシにすごく心を打たれた。
 ミハシを庇いながらも見下して哀れんでいいた十季子の事をミハシは分かっていたという点、十季子の不倫を止めようとした点、二人が保育所で話し合っていたのを揶揄した主婦に殴りに行った点。ミハシの不器用な一直線の愛情を感じた。
 そして最後は「お互いがお互いの事心配してたからこういう事したんだよね」って昔に戻った瞬間が「切ない」。
 これから十季子はたぶん夫と姑に捨てられ、息子とも会えなくなるだろう。でも、ミハシと十季子の関係性が復活して、友情を確かめ合ったから、

>十季子たちは口汚く罵り合い、際限なく続く悪口の応酬を楽しみ、そして、笑った

 に繋がるんだろうね。
 最後になるが、僕は「切なさ」も大好きだが「人間をきちんと描けている」という点を重視している。
其れは此の作品を読み通せば、ミハシと十季子の人間をちゃんと描けているというのがわかるだろう。
 この作品に出会えて良かった。文學界高いけど買って良かった。
 後からじわじわ来てるんだけど、大西智子のぱちぱち滅茶苦茶好きかもしれん。

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