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RETSUDAN SENSEIの感想文

感想文をバシバシガシガシ書きます。

【読書感想】 文學界5月号掲載 水原涼『チャンピオン』感想

 概要は此処に書きません。感想だけ。

 冒頭からかなり力の入った描写。ボクシングの試合の描写だ。改行も殆ど無いけれど、何故かすらすらと読んでしまう。動きやシーンが流れるようにして描かれている。此れは書くの大変だったろうなと思った。然し無駄な描写は一切無い。最初こそ春樹の影響かな? と思ったけど、春樹は無駄な描写もあるので。しかし其処こそが、読み手を選んでしまうポイントなのかもしれない。
 普段小説を読まない人なんか特にそうだと思うけど、此の中々ストーリーが進まない感はしんどいかもしれない。同誌に掲載されている市街戦も同じように丁寧で詳しく力の入った描写をしているけれど、というか市街戦は描写ではなく愚痴だから此れとは違うか。

>自殺なんて現実に立ち向かえない弱いやつがすることだと思っていたけれど、
彼らは死への恐怖に打ち勝った強い人々なのかもしれない、とすら思えた。

 うーん、使い古されてますね。

 途中にインタビュアーに掌編の紹介をして、その掌編と何時何処で出会ったのか、というところは凄くほっこりとした。
 クラスメイトとは本の貸し借り以外しないと書いてあるのに、「友人が」なんて、友人でもなくクラスメイトとして書けば良かったのに。其の友人からは何度も文庫本を借りている。でも家にはお互い遊びに行かない。不思議な友人関係だなぁ。
 転校する事になり、其の友人と言い争いをして、転校日になって友人から文庫本を渡されるところはちょっと切なかった。
 そして二度誰かの掌編が挿入される。意味が無いようで意味がある。
 二つ目の掌編で、津波に襲われて死んだ少女と其れを発見した少年が、二年後に恋に落ちるはずだったのに、残念ながら、とあったが、ああ成る程ね、面白い書き方だなと思った。 
 しかし引退を撤回して再チャレンジするきっかけがあまり良くない。震災現場を見て感じ取ったのかなぁ。

 最後の再戦の後、引退してクラスメイトに借りていた小説を読んで、ネットに感想でも投稿しよう、というのがちょっとホロリときた。
 タイトルからして勝ちまくりんのサクセスストーリーかと思いきや、とある人間の一生を淡々と描いていた。

 二人称は、何で二人称にしたのかなぁ、と思った。結局最後まで語り手は誰なのか分からないし。
 二人称の小説をあまりというか殆ど読んだ事が無いので。
 でも、お前って語り掛ける二人称は、距離感が近くに感じられて、其処は良かった。
 僕の中では語り掛けている人は主人公の妄想なのではないかと考えている。

 最後に。一つ一つのエピソードがあっさりとしていたのと文章が滑らかで心地よいので一気に読んだ。
 其れは文章がぶつ切りではなく繋がっているのが理由かもしれないね。
 とても面白かった。此の作者の作品は読んだ事が無かったので、此れからチェックしようと思う。
 しかし、あー震災原発絡ませるのね、とちょっとだけ萎えた。