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西村賢太/無銭横丁 感想。

短編集。矢張り西村賢太だけあって、読み易く感情移入し易い。しかも相変わらず続きが気になる所で終わっている。

・菰を被りて夏を待つ
憧れの私小説家二人の話。やまいだれの話の続きとなっているので、其方を先に読んだ方が分かり易いだろう。
田中英光の小説紹介。しかし只の小説紹介ではなく、その私小説家への愛が詰まっている。

・邪煙の充ちゆく
此れもう大好き。纏まっているし完成されている。秋ちゃんシリーズ。
概要は、同棲している女に貫多が気を使い、ベランダで煙草を吸う様にしていたのだが、
秋ちゃんは部屋で吸っても構わないと言う。当初こそ守られていたが、冬の寒空の中蛍族はキツイので、
結局部屋で喫煙。最後の聖域であり、何が在ろうと絶対に此処では吸わないと決めていた
寝室でさえも吸ってしまう。貫多の三日坊主振りが良く出ている。
終わらせ方がとても良かった。

・朧夜
私小説家に成った貫多。居なくなった秋ちゃんの事を思いながら、小説を書きなぐる。
秋ちゃんと同棲していた頃の小道具を出してくる辺りがニクい。

・酒と酒の合間に
友人T・Sの文庫の解説に取り掛かろうとした貫多だったが、
お互いが好きな野球の話に変わっていく。貫多が小学生の頃、
野球選手にサインをねだろうと父親が頭を下げまくったという話を思い出し、少し切なくなる貫多。

・貫多、激怒す――または「或る中年男の独言」
私小説家になった貫多。あれ? 一人称使ってる! ネタ的依頼をされて小説を書こうとするも、。
そういうのであれば普通の小説が書けるのに、結局は私小説しか書けないというのに共感が沸いた。

・無銭横丁
何時ものクズ貫多。家賃踏み倒した後追い出される事になったが、
新たにアパートを借りる軍資金が無く、おまけに生活費も無い。
「スーパーで袋ラーメンを買い、多めにナイロン袋を貰い、それに水と乾麺を入れ、
もむようにすると冷えて伸びたラーメンになる」此処が凄い。僕にはとても真似できない。
生活費を工面するために大切な本を売るというのが、今の僕の状況に似ていて共感した。
しかし其の金も結局……。

私小説というのはある程度読む順番があるし、その作者を知りたい一心から
どんどん読んでいってしまうのかなぁ。だから私小説って面白いね。