読書感想ブログ

感想文をバシバシガシガシ書きます。

【映画感想文】 山口雅俊/闇金ウシジマくん ザ・ファイナル 【2016年公開】

 実写版はこれにて完結。原作もまとめに入っているし、ヤミ金くん編をやって終わるのが一番いいかもしれないな、と思った。なにより最終章は、実写版ではチョイ役で使ったマサルが重要人物なので、なかなか面倒くさそう。

【感想】
 メイン・キャストの面々は相変わらずいい役者が揃っていて文句がない。鰐戸三兄弟の長男一役の人、えらいイケメンだなと思ったら、まさかの安藤政信氏で驚いた。しかしよく考えてみれば、肉蝮役に新井浩文氏、相沢連合のヘッド相沢役に中尾明慶氏、蝦沼役に柳楽優弥氏と敵役にいい俳優を揃えていたので、そこまで驚くことではないのかも。余談だが、四十二歳でこの若々しさは素晴らしいね。落ち着いた演技も格好良かった。

 完結というわけで、丑嶋には様々な敵が現れる。中学時代の因縁がある鰐戸三兄弟、借金の未払金を専門とする弁護士都陰、毎回毎回とても恐ろしい犀原茜。

 中学時代の丑嶋と柄崎とキー・パーソンである竹本の出会い、鰐戸三兄弟との因縁、鰐戸三兄弟が運営するホームレスを集めて金を搾り取る誠愛の家の面々、都陰弁護士の違法なやり口がメインとなっている。

 原作でも辛かった竹本の話は、当然の話しだが実写版でもとても辛かった。

 その上犀原茜までメインの話に関わってくるとは驚いた。


 そしてなにより、ザ・ファイナルで一番強く述べておきたいのは、中学時代の丑嶋を演じた狩野見恭兵氏と同じく柄崎を演じた江口祐貴氏のお二人。特に狩野見恭兵氏は、丑嶋役である山田孝之氏の雰囲気ががっつり出ていて、声も渋くて演技もとてもよかった。ここまで少年丑嶋にぴったりな俳優はなかなかいないのではないだろうか。よく見つけたなと思った。本当に素晴らしい。

 中学の話が基本軸となるので、そこで描かれる様はとても重要。そんな重要なシーンでのキャストがここまで素晴らしいものになったのは、若い俳優の面々のいい演技のおかげだろう。

 緊張に次ぐ緊張の展開の中に、ほっと一息つく展開が入れられ、緩急のつけかたが本当に上手い。こんなにまでいい完結編が観られるとは思ってもいなかった。


 まあできることなら、ヤクザくん編や逃亡者くん編、そして現在連載中であるウシジマくん編もこの実写版のキャストで観てみたいと思った。


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【映画感想文】 山口雅俊/闇金ウシジマくん Part3 【2016年公開】

 個人的に、原作を超えたメディア・ミックス作品だと思っているシリーズの、劇場版三作目。僕は原作を集めて読んでいるファンですが、原作ファンを唸らせる実写版なんてそうそうありません。

 そもそも、劇場で観ようと思っていたのが映画館に出かけるのが面倒に感じてしまい、配信を待っていた。気づけば劇場公開から一年以上経っていた。

 原作でいうところの、中年会社員くん編フリーエージェントくん編の実写化。

【感想】
 文句なしです。メイン・キャストの方々の演技も素晴らしいし、チョイ役の方々もとても存在感が光っていました。

 シリーズ通して出ている丑嶋役の山田孝之、柄崎役のやべきょうすけ氏、高田役の崎本大海氏、戌亥役の綾野剛氏はもちろん、冴えない中年サラリーマンの加茂役のオリエンタルラジオ藤森慎吾氏、沢村メソッドでのし上がる沢村役の本郷奏多氏、ネット・ビジネスのカリスマ天生翔役の浜野謙太氏、チンピラ獏木役の矢野聖人氏、かりべー役の月見草しんちゃん氏、沢村の父役の大杉漣氏……。

 ここまで違和感のない配役は素晴らしい。

 犀原茜役の高橋メアリージュン氏、その部下村井役のマキタスポーツ氏の出演シーンが少なかったのは残念に感じた。が、まあ他でメインを張ったしこの二つの話だとなかなか絡ませにくいかな。

 そして、これまで個人的に全然可愛いと思わなかった花蓮役の筧美和子氏の上品な美しさには惚れてしまった。


 まぁしかし、男に騙される女と、女に騙される男の悲しさったらないですね。

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【読書感想文】 川村元気/世界から猫が消えたなら 【2014年刊行】

 昔やり取りのあった女性が勧めてくれたので、アマゾンで購入した。2014年に。積ん読棚から「ライトな感じだろうし、これ読むか」と手にとって読んだ。

 一言で言うなら、作者の川村さん、今すぐ僕んち来いや。とりあえずどついたるから。

 あかんでほんま。あかんで。ええねんええねん、文章が稚拙でも、なんやどっかで聞いたことのあるネタでも、かまへんかまへん! そんなもんや! 今まで小説書いたことないんやから、しゃーないしゃーない!

 ほいでもなぁ、あかんで。読者を馬鹿にしたらあかんで。ほんまに。おどれはなんやねん、こんなもん読まして、感動させよう思たんかい? あ? 別にわしはあれやで、ベストセラーはとりあえず貶しとこかい、みたいなのは一切あらへんで。ほいでもなぁ……

 こんなもんで感動するわけあらへんやろが。


 一から順に言うたるわ。ええねんええねん、文章なんかそんなもん、酷おてええねん。レビューでも稚拙や稚拙や言われとるわ。
 うん。
 ほいで訊きたいんやけどなぁ、フーカフーカした猫の感触ってなんやねん。あぁ? ちょおそれ説明して。うん。全然待つよ。うんうん。なんやねん、フーカフーカって。フカフカでええんちゃうんかい? そないすんねやったらなぁ、統一せんかい。全部そないせんかい。おい、なんやこれ。「なんやちょっと、他の小説とはちゃいまんねん」ってか? そんなもんなぁ、やる順番が違うやろがい。まともな文章書いてから、「他とはちゃいまんねん」ってことをせんかい。「読者をちょっとあれや、苛つかせようとしたんや」っていうんやったら成功しとる。大成功や。わしは常に苛々しとったわい。それが出てくるたんびにのお。


 まだ訊きたいことはあんねんや。悪魔が出てくるやないけ。主人公に言うやないか、「自分、明日死ぬねん。まあでもあれや、この世界からなんか一個消したら、寿命一日伸ばしたらい」っていう悪魔が。それがなんでこんなに軽いねん。アロハシャツ着てるとか口調が軽すぎるとかな、なんでそんなに軽いねん。
 あれやろ自分、「読者を感動させたらい!」言うんやろ。ほなもうちょっとどないかせんかい。

「なんや、ほなあれかい、涙誘いたかったら重々しくせなあかんのかい!」

 いやちゃうねんちゃうねん。寒いねん。もうあれや、もう、全部寒いねん!


「ほな、世界から電話消したろかい!」と悪魔が言うわな。
「あれやな! 電話消えたら、電話ばっかりしよった元カノのこと思い出すな!」ってなりよるわな。

「ほな、世界から映画館消したろかい!」と悪魔が言うわな。
「あれやな! 映画館消えたら、最後に観る映画決めなあかんな!」ってなりよるわな。

「ほな、世界から時計消したろかい!」と悪魔が言うわな。
「あれやな! 時計消えたら、時計屋の父親のこと思い出したわい!」ってなりよるわな。

 ええやないか。消えたことによって、新たに思い出すわけやな。うん。

 あのな。電話消えたやんか。せやのにさ、元カノがさ、「電話の時はよう喋るくせに、実際に会うたら全然喋らんやないけ!」って言うやん。ここようわからんねんな。え? 電話消えたんちゃうんかい。ちょっとようわからんな。うーん?
 そこがな、どんだけ考えてもわからんねん。


 まあ、なんぼでも出てくるけど、このへんにしといたるわ。ほいであれやな、終盤に向けての、「感動させたろ! 感動させたろ!」が見え見えでなあ、死ぬほど寒いわ。今十一月やからこんなに寒いんやろなあ。あー寒い寒い。

 感動もくそもなんにもあらへん。金返せとは言わん。時間を返してくれ!


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【読書感想文】 村田沙耶香/殺人出産 【2016年刊行】

 コンビニ人間でがっつりとやられてしまったので、積んでいた本作をすぐに崩した。

 「アホやなぁ」の一言に尽きる。当然褒め言葉。設定も登場人物もぶっ飛んでいるSFなので、なんだか筒井康隆氏の短編集を読んでいるような気がした。

殺人出産

 表題作なんですけれども、「十人出産したら誰か一人を殺してもいい」という世界の話。女性に限らず、男性も人口子宮を装着すれば出産が可能。しかし十人出産するのは至難の業なのでハードルが高い。
 主人公の姉がまさに殺人出産をしていて、そんな主人公に近づいてきた早紀子は、ルドベキア会という、「殺人出産なんて倫理的におかしい。産み人とかいって美化しているが、殺人を餌に出産させているだけだ」と殺人出産を真っ向から否定する会の会員で、姉に会わせろと言う。

 設定だけでもうわくわくしてきちゃうよね。ハードルは高いものの、殺人が合法になっているので、いつ自分が殺されるのかという不安もある。主人公の同僚はあっさりと殺されてしまう。しかし、殺した側も殺された側も美化されている。自分の代わりにたくさん出産してくれてありがとう、自分の代わりに死んでくれてありがとう、と。


トリプル

 個人的に一番ぶっ飛んでいる短編かな、と。男女二人でのカップルとしての恋愛より、男女三人でもトリプルという恋愛が若者のスタンダードになっている世界の話。主人公の母親は「トリプルなんて汚らわしい!」なんていう前世代の見方をし、主人公は「カップルなんて時代遅れよ、自由でいいじゃない!」という現世代の見方をする。

 男二人女一人のトリプルのセックスの描写が繰り広げられる。正直「気持ちが悪い」と思ったが、僕も主人公の母親のような「トリプルなんて汚らわしい!」という考え方なんだなと思いましたね。うん。


清潔な結婚

 家族なのにセックスするのはおかしい。兄弟みたいな結婚生活がしたい、という夫婦の話。でも子どもは欲しいので、最先端のクリニックへ行きましょう。

 「それでは、今から旦那様が精子をお産みになります」って、笑かしにかかっとんのか。爆笑したわ。夫は看護師にオナホールでしごかれて、妻はそれを受け止める。家庭内でのセックスは禁止なので外でするわけだが、夫がまた面白い性癖の持ち主で、「こんな性癖の人とセックスしなくて助かったわ」なんていう流れもある。
 トリプルほど気持ちは悪くなかったが、まあもうわけがわからない。


余命

 掌編。「医療が発展し、死がなくなった。老衰も事故死も他殺もない。百歳二百歳まで生きられる。なので死に方にこだわろう」という話。

 あらすじを説明したら終わっちゃったよ。


 まとめとしましては、コンビニ人間もそうだったけれど、主人公たちの意見を真っ向から否定する人々が滑稽で人間臭く描かれているので、逆に、主人公たちの意見が正当化される。それが作用して、ぶっ飛んだわけのわからない設定にリアリティが生まれる。
 筒井康隆氏的ワールドであれば、ぶっ飛んだ設定でぶっ飛んだ結末を迎えるところだが、読後感が清清しい。

 殺人衝動だとかセクシャル・マイノリティだとかウンヌンカンヌンで暗い世界観なのに、基本的に笑かせにかかっているので、笑いながら楽しんで読めた。

 完全に、村田沙耶香氏の世界にはまりこんでしまったようだ。


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【読書感想文】 村上春樹/雨天炎天 【1991年刊行】

 ギリシャとトルコの紀行文。海外旅行をしたことがないので、大変興味深く時間を忘れて読んだ。

 当たり前の話だが、日本の常識が通用しないところが特に面白い。ギリシャでは皆が皆黴の生えたパンを食べて、信仰のために厳しい生活をしている。トルコではウォーター・クーラの水を飲んだだけで激しい下痢に襲われたり、兵隊が街を当たり前のように歩いていたり、国境の近くは緊張している。

 短い本でかつあっさりとした文章なのであっという間に読み終わったが、内容は濃密でギリシャとトルコを旅行した気分になった。文句なしにとても面白かった。


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【読書感想文】 村田沙耶香/コンビニ人間 【2016年刊行】

 第155回芥川龍之介賞受賞作。

 やたらと話題になっていたので気になっていた。ようやく読めた。読み始めて、気がついたら終わっていた。


 感情も恋愛経験も就職経験もセックス経験もなにもない、主人公古倉。簡単に述べてしまえば、この人には「当たり前」という概念が通じない。十八年間コンビニでアルバイトを続けているというだけで、異質なのがわかる。
 しかし自分が「異質」なのは理解していて、それを隠して生活している。

 そんな古倉のすべてであるコンビニに、白羽という三十五歳で恋愛経験も就職経験もセックス経験もない「異質」な男がやってくる。世の中のものすべてに憤りを感じている。最初に思ったのは、こりゃまたとんでもないキャラクターだな、と。古倉のおかしさとはまた別のおかしさの塊で、振り切っているのにリアリティを感じる。それは古倉も同じで、振り切っているのにリアリティを感じる。

 白羽が出てきてからは、古倉と白羽の「振り切った人間対振り切った人間」のやり取りが繰り広げられる。そして、「コンビニで働いている人間を演じていた」ことが崩壊してゆく。


 単純に面白かった。読む手が止まらなかったし、エンターテイメントしていてとても読みやすかった。


 僕はセブン・イレブン、ファミリー・マート、ローソンでアルバイトしたことがあるが、朝礼なんてなかったしここまで皆が皆きびきびとはしていなかった。


 読めてよかった。


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【読書感想文】 高橋源一郎/正義の見方 【1994年刊行】

 たっぷりなユーモアで時事ネタを斬る!

 声に出して笑うところもあった。しかし、時事ネタが古すぎて知らなくてわからないところもあった。でも仕方ないよな、94年に出た本なんだもん。

 あえて今の時代に読む必要性は……ない。でも源一郎氏ファンなら楽しめるでしょう。