読書感想ブログ

感想文をバシバシガシガシ書きます。

【読書感想文】 黒田晶/メイド イン ジャパン 【2001年刊行】【文藝賞受賞作品】

 この本を読むのは、刊行された十五年前、高校のクラス・メイトで仲の良かった男が、「すごい小説を見つけたぞ」と興奮して貸してくれて読んで以来だった。

 中高生の男というのは大体においてグロテスクなものが好きだ。ゴア描写が好きだ。それは映画でも漫画でも小説でも関係がない。ロメロ監督のゾンビやフーパー監督の悪魔のいけにえなんて何十回観たかわからない。

 でも僕はそれ自体を「面白い」と思いながら、ゴア描写は手で隠してしまうような小心者だった。二十歳を超えて当時の彼女と観たバタリアン・リターンズでタール・マンの背骨的なものが気持ち悪くてトイレで吐いたり、ソウ3の冒頭の頭蓋骨の手術のシーンなんて一切観られなかったし、白石晃士監督のグロテスクって映画なんて冒頭で観るのやめたし、イラクで捕まった男性の処刑動画を友人と一緒に「なんとなく」観た時も、数ヶ月間は気持ちが陰鬱になった。

 ゲームでも、一般人を殺せるグランド・セフト・オートなんかより、人の首をスコップでふっ飛ばしたりガソリンをかけて苦しみながら燃えていく人に小便をかけたりできるポスタル2なんかが「リアル」だと思っていた。でも実際は、気持ちが陰鬱になっていた。

 動物虐待とか幼児虐待なんかも吐き気がするし、行き過ぎたゴア・シーンなんて観れたもんじゃない。でもそういう本音を言うと馬鹿にされてしまうような中高生時代を送った。


 と、前置きが長くなったが、まあこの小説は、帰国子女でマイノリティな子どもたちがラリってスナッフ・ビデオを観る。子どもが無残に殺されて犯される。で、興奮しちゃったタカシがそのうちの一人の気弱なシンを殺しちゃう。ただそれだけ。文章だってそんな上手くもないし、誰がなにやってなに言ってるかわからなくなる時もある。

 でもセンスが溢れている。英語を効果的に入れて結構勢いのままに突き進むので、「文章を読んでいる」というよりも「そういう動画を観ている」と錯覚させられる。


 とまぁ褒めたが、そこまでの衝撃はなかったかな。殺人シーン、解体シーンもあっさりと書いちゃって、ねちねちぐちゃぐちゃ感がない。もっと徹底的に観て感じたかった。人が死んでいく様を。

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【読書感想文】 高橋源一郎/いざとなりゃ本ぐらい読むわよ 【1997年刊行】

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 高橋源一郎氏の書評が面白いのは当たり前の話なので、この本が面白いというのも当たり前の話で、面白いと思って積ん読棚から取り出して数日かけて読んでみたわけだけれど、面白いよね。

 ちょっと興奮していたのか、左手のすぐ隣りに置いてあった灰皿に手が当たってしまい、溜まっていた吸い殻すべてをカーペットにぶちまけてしまったわけだけれど、それでも、この本が面白いという事実は変わらない。


 そんなに言って、どこがどういう風に面白いのか説明してよ、と言われても、面白い本のどこがどう面白いかなんて説明しなくても、面白い本は面白いんだから仕方がないじゃん。


 おそらく前回の書評感想にも書いただろうけれど、やっぱり結局は「その本の中で取り上げられている本が読みたくなるかならないか」で決まるわけですね。小説だけに限らず、写真集や競馬雑誌やファッション雑誌、天体雑誌などなど、ものに限らず取り上げられていて、なおかつ面白い。


「面白いな。うん。面白い。面白いんだからもういいじゃん。感想とかだるいし。なんだよ文学って、小説って、知らんし。どうせ僕なんてこれまでそんな大したもん読んできてないし。つまんないことになんてこだわってても仕方ないし。どうでもいいじゃない。どうでもいいんだよ、バーカ!」

 これが、読み終えて一番最初に頭に浮かんだ感想。


 この本の中で何度か話題になっている、ゴースト・バスターズ 冒険小説は積ん読棚に並んでいるので、これの次に読んでいる本の次に読みたいと思います。


 漫画・映画・小説で他にいい作品があれば教えてください。

【読書感想文】 内田樹・高橋源一郎/どんどん沈む日本を愛せますか? 【2012年刊行】

 渋谷陽一氏責任編集の雑誌SIGHTでの対談をまとめた、二冊目の対談集。


 この三人にはブレがないので、基本的には前回と同じ主張のまま、政治について対談している。そこから教育の話に飛んだり、石坂洋次郎氏の青い山脈の話になったり。。
 震災から三ヶ月後に行われた対談も入っている。


 経済も人口も右肩下がり。それでいいじゃない、と何度も発言している。確かにそうだと思う。
 そうなるとエネルギーもそんなに必要なくなるから、原発もいらなくなる。確かにそうだと思う。
 東京で使う電力のために地方に原発を押し付けている。だったら東京に置け。確かにそうだと思う。


 驚いたのは、電力会社が金で釣ろうとしていること。広告費なんていらないのに年間数百億使っている。アーティストが反原発を発言すると「CMのテーマ・ソングどうですか? ギャラはウン千万」とか、反原発を発言している人を接待するとか……。


 一概に「原発反対!」とは言えないけれど、「原発賛成!」とも言えない。とても難しい問題。


 石坂洋次郎氏の青い山脈読んでみたくなったけど、絶版の上定価より高い値段がつけられているので、ちょっと手を出しにくいね。

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【読書感想文】 佐伯一麦/ア・ルース・ボーイ 【1994年刊行】

 古い付き合いの文芸友だちから紹介されたものの、数年間積んだままだった。どういう作家なのかもわからないし、どういうジャンルなのかもわからない。うだうだと読むのを先送りにしていた。

 そして昨日、なんとなく手にとって読んでみた。そして、時間を忘れて読み耽った。

 読み終わった瞬間、外が大雨だろうがここがドトールだろうが関係なく、「とんでもないものに出会ってしまったなぁ!」と叫びたくなった。簡単な話、衝撃を受けた。


 私小説で、ミステリー要素もあり、青春していて、切なくて、とてもいい。


 十代の男女による恋愛小説かと思いきや、どこの馬の骨かもわからない男の子どもを出産した幹と娘の硝子のために、主人公である鮮は成り行きで決まった肉体労働で金を稼ぐ。社長が理解のある人で、生活用品を差し入れたりしてくれる。鮮はそれ以前に進学校を勢いにまかせて退学し、母親との面倒な関係があり、過去に年上の男にされた忌まわしい記憶があり……。


 考えてみると、こういう若い男女が懸命に生きる様が描かれたものを三十を超えた今読んだから、余計に胸に迫るものがあるのかもしれない。どうしようもなさって、本当に沁みるね。


 この小説にはドラマがある。いいものを読んだ。これだから読書はやめられない。佐伯一麦氏をお気に入りの作家の一人に入れておこう。

【読書感想文】 北尾トロ/裁判長!ここは懲役4年でどうすか 【2006年刊行】

 裁判というものにまったく詳しくない著書が、手探りで始めた傍聴を記録したもの。

 事件の大小にこだわらず手当たり次第で傍聴するというスタイルを貫き、そこにあるドラマを追い求める。

 次第にコツを掴み傍聴仲間も増えていく様に、単純にわくわくさせられる。読み手も素人なので著者と同じように裁判というものがわかっていく流れがとてもよくできている。

 様々な事件に様々なドラマがある。読んで本当に面白かった。

【読書感想文】石田衣良/池袋ウエストゲートパークⅩⅢ 裏切りのホワイトカード 【2017年刊行】

 新刊が待ち遠しい一作をようやく読んだ。
 四編からなる短編集。
 展開がスムースすぎて物足りない感はあったが、文章・構成共に素晴らしく、とても楽しんで読めた。


滝野川炎上ドライバー

 礼儀正しく、いい人の見本のような配送員ジュンジの息子トオルが、真冬にも関わらずTシャツ姿で真島フルーツ店の前で立っていた。マコトと母がトオルを介抱すると、腕に縦三本のミミズ腫れがあるのを発見する。虐待を疑う母は、マコトに調べるよう指示する。

 簡潔で気持ちのいい文章は相変わらず。でもなんだか展開が駆け足のような気がした。炎上のところや虐待のところなんてもう少しじっくり描いてもよかったのでは、と思った。


上池袋ドラッグマザー

 ゲリラ豪雨に襲われた池袋。フルーツ店の前でずぶ濡れになった女子中学生マイを発見する。マイは二週間昼食を我慢して得た四千円で、マコトに仕事を依頼する。「母親が別人になってしまったので調べて欲しい」と。

 女を薬漬けにして金を得る男を成敗する話。久しぶりに吉岡が出てきた。今回もなんだか展開が駆け足のような気がした。


東池袋スピリチュアル

 デニーズで生活している、スキンヘッドの頭にインプラントを埋め込んだ凄腕ハッカー、ゼロワンから呼び出しを食らう。夢で見たものを調査して欲しいと。

 僕が数年住んでいた大塚駅が出てきたのがなんだか嬉しかった。村上春樹も小ネタとして出てくるのでにやりとした。霊感商法を批判しつつ、本物を出してくるのが上手い。タカシも出てきます。


裏切りのホワイトカード

 店番をしていたマコトの元に、タカシから電話がある。「誰にでもできる仕事で、ギャラは十万。二千人から三千人の人員を募集するという話がきたのでそれを調べろ」と。
 同時期に、柔道かレスリングの経験がある屈強なスーツ男に呼び出され、年間売上が一兆六千億を超える製薬会社の理事ミオンと会う。「家から出てブラックボードという裏サイトを運営している弟を探して欲しい」と。

 タイトル作。シンジとミチカの話は感動したし、二つの話がラストへ向けて収束していく流れがとても楽しかった。池袋シリーズのよさが存分に出た一作だった。

【読書感想文】 よしもとばなな/キッチン 【2002年刊行】

 言わずと知れた、よしもとばななのデビュー作にしてベスト・セラー小説。よしもとばななの小説は以前読んだアムリタが個人的にかなり好きだったので、デビュー作で評価がとてつもなく高いキッチンを読むのが楽しみだった。

 そして、読んだ感想。

 ……うぅむ……。

 主人公である桜井みかげに嫌悪感を懐きながら読んでいた。「私って、不幸だわぁ~、それを聞いて欲しいわぁ~」感がすごく苛々する。一緒に住むことになった雄一との関係性も意味がわからないし、「そういうあたしたちの関係」というのが吐き気を催すほどに気持ちが悪い。

「◯◯なのだ。」みたいな会話も滑っていて寒い。


 文章もいちいち引っかかるところが多いんだよなぁ。

 亡くなった人たちとの思い出が挿入されるわけだけれど、読み手からすればそんな思い出知らないし過去に描かれたわけでもないし、「あっ、そう」としか思えない。


 んで、満月――キッチン2になるとより一層みかげが気持ち悪くなっていく。そりゃぁ、雄一のことが好きな女からすれば、みかげは目の上のたんこぶだよな。「雄一君をたぶらかさないで!」と必死にみかげに抗議しても、「自分の面倒は、自分で見るものです」とか言っちゃって。

 その後に、地の文でこれまでのことや自分と雄一の関係性は軽く吹き飛んでしまうだけの関係だと言う。嫌いだわ~。


 最後のムーンライト・シャドウは、不思議な話で悲しいお話というだけ。