【読書感想文】【小説】 村上春樹/女のいない男たち
六編からなる短編集。一つ一つ感想文をつけていこうと思う。
しかし、短編のいいところは、一気に物語に入り込んで、一気に終わる、この短い間の没入具合がの気持ちよさだよね。
ドライブ・マイ・カー
設定が面白いね。個性派俳優の家福が、一時的に運転をやめたので、運転手を探した。娘ぐらいの女性で、愛想がなく、喫煙者の渡利みさき。しかし運転の能力は高い。
家福は嫁を病気で失くした。家福と嫁の関係は良好だったが、嫁は数人の男と寝た。そしてそれを家福は知っていた。しかし、なぜ他の男と寝たのか、という理由を聞く前に亡くなってしまった。
そして家福は、嫁と寝ていた一人の男と仲良くなる。
という話を、回想として、運転手のみさきに話す。
なんだろうな、ただそれだけの話なのに、読ませるんだよね。寝ていた男とのサシ呑みのシーンはハラハラしたし、家福とみさきの会話――と言っても、みさきは愛想がないので、家福が一方的に話すだけだが――シーンもすごくよかった。
こういう何気ないシーンを書くのが本当に上手い。しかし、今までは好きだった、春樹氏的会話文が、最後の最後でちょっとだけ鼻についた。
イエスタデイ
僕は、東京生まれなのに、関西弁を完璧に使いこなす木樽という男と知り合う。木樽には美人な彼女がいたが、幼少時からの付き合いなので、どうもキス以上の関係になれない。そんな木樽は、僕に、彼女と一度デートしてみてくれ、とお願いする。
この話は、いつもの村上春樹的短編という感じがする。設定が先にあって、話の展開は流れにまかせ、特別なにかが起こるわけでなく、たくさんの謎を残したまま終わる。もう何度も何度も読んだパターンなのに、物語にただよう空気感がとてもいい。読後感が気持ちいいね。
独立器官
ジムで、渡会という美容整形外科医と会い、仲良くなる。渡会は患者である、主婦に恋をしていて、そのことなどを二人で話し合う。
恋煩いのお話。渡会は五十歳を超えて、金だってたくさんあるのに、独身を続けていた。数人のガール・フレンドと交際していた。その中の一人に没入してしまう、という話で、一人の女性に虜になるなんていうのは、珍しい話じゃない。後半からの渡会の顛末なんていうのも、すごくあり得る話。
あんまり楽しい話ではない。
シェエラザード
なんらかの理由により外へ出られない羽原には、外からやってくる女性に食料品の買い出しやDVDや本といった娯楽を買ってきてもらい、生活をしている。
今は、羽原がシェエラザードと名付けた女は、買い出しの他にベッドの中の世話もしてくれる。毎回行為が終えると、嘘か本当かわからない話をする。
十七歳の時に好きになった男子高校生の家に侵入していたという話がメイン。最初こそ侵入が男子高校生や家族に知られないようにしていたが、徐々に大胆になってゆく。
さっぱり意味がわからないのに、読後感がすごくよい。相変わらず結末もよい。二年後にシェエラザードがストーカー対象の男に再会したという話の続きが気になる。羽原の生活設定は、最後まで明らかにされないまま……。でもそれが春樹氏的でいいよね。
木野
叔母から譲られた一軒家を改装し、木野という名前のバーを開く。寡黙で読書が趣味のカミタという常連客と、いつの間にやら住み着いた猫が主な客。木野は離婚をし、静かにバーを経営している。
この短編集で一番の盛り上がりを感じた一編。途中から怒涛の春樹氏節が波のようにやってきた。日常が非日常になる。これだから読むのをやめられない。
感情を殺さずにそれに従い、怒り、そして悲しみ、自分を出さねばならないということなのだろうか……。
女のいない男たち
一番短い話。話というよりも、まとめのようなもの。あらすじともとれる。
昔付き合った元彼女の旦那から、元彼女が自殺したと知らされる。
【読書感想文】【小説】 石田衣良/池袋ウエスト・ゲート・パークⅫ 西一番街ブラックバイト
再始動が嬉しい。一つづつ感想文をつける。
西池第二スクールギャラリー
マコトの元に、同級生のサエコがやってくる。サエコは和菓子屋岡久の一人娘で、使われなくなった小学校をギャラリーにしている。そこに置かれていた、小門屋という男の作品を何者かに壊されたので、その犯人を突き止めて欲しいと頼む。
小門屋の設定がよかった。三十歳まで建築現場で働き、三十歳の誕生日の日に、自分の誕生日を祝ってくれる人もいない。このまま歳を重ねていくだけの人生は嫌だと、小学校時代に唯一褒められた工作でなにか結果を出したい、と考えている。
最初は三年間だけという期間を決めていたが、気づけば九年経ち、三十九歳。
流れを読んでいく内に、おそらく今回のオチはこうじゃないか? とぼんやり思っていた。しかし全然異なる方向からそれはやってきた。
流れるような、必要最低限だけの無駄のない文体と内容は十二巻目でも変わらず。とても面白かった。
ユーチューバー@芸術劇場
マコトの元に、ユーチューバーの140★流星がやってくる。過激派ユーチューバーの戸田橋デストロイヤーZの集団が、140★流星をターゲットにし、三周年記念の動画撮影を台無しにしてやる、と脅迫する。それを解決するのが今回のお話。
短いのに読み応えはたっぷりだった。
ユーチューバーを安易に批判するような内容ではなく、認めつつも、考え方が違う程度に押さえている。
140★流星の、ユーチューバーとして生計を立てる大変さも入っている。
そしてなにより、話が二転三転する。やっぱりミステリのシリーズなんだなと思わせる。
タカシらGボーイズも活躍するので、タカシのファンもお楽しみに。
立教通り整形シンジケート
マコトの元に、絶対にマスクを外さないスズカという美女がやってくる。ストーカーの被害にあっていると相談を受ける。そこへ、ゲイの美容院の店長、整形被害の話が絡んでくる。
同じくかなり短い。しかし中身は濃い。
単なる整形被害ではなく、女性のコンプレックスを食い物にし、整形中毒に仕立て上げ、金を巻き上げる。
そしてそこへ、スズカのストーカーが絡み、物語は盛り上がる。
西一番街ブラックバイト
マコトの耳元に、破格の安さを売りにするOKという外食店数件の売り子の叫び声が入る。そこで働くマサルという若者に会い、OKの凄惨なブラック内情を聞く。同時にタカシから、「OKに入社したGボーイズから苦情が殺到している」という話が入る。
ある日、飛び降り自殺の現場に遭遇する。その若者は、マサルの地元の後輩で、マサルがOKへの入社を勧めたミツキという若者だった。
そこから、マコトとタカシ率いるGボーイズ、バイクのひったくり犯、OKというブラック企業とどこにも属さない武闘派の集団と、物語が交錯してゆく。
タイトルのお話。四つの中で一番長い。しかも今回の敵は、池袋にチェーンを広げ、慈善事業にも手を出す大手企業。
個人的に、一番盛り上がる話だった。様々な人物や立場がイ力んでいるのに、相変わらずのスマートな文体で読みやすく、それぞれのキャラもきちんと立っていて、徐々に膨らみを増す物語を追うように頁をめくっていた。
やはり池袋シリーズはスタイリッシュで爽快感があり、テンポもよく、キャラも立っていて、本当にエンターテイメントの見本のような作品。
そして気づいた点が二つ。
一つは、シリーズのどの話にも、マコトが読み手に、「あんた」と呼びかける場所がある。たったそれだけの言葉で、物語に没入するリアリティを与えている。読者は今まさに、マコトと一緒に事件を追い、マコトと一緒に思考をこねくり回し、マコトと一緒に事件の解決を見届ける。
この爽快感がたまらない。
もう一つは、いつまでたっても彼女の出来ないマコトがなにかあるたびにタカシといちゃいちゃするのは、腐女子ウケを狙っているのではないだろうか、という点。
【映画感想文】【洋画】 ロブ・ライナー/スタンド・バイ・ミー 【1987年公開】
十年ぶりぐらいに鑑賞。
……いやぁ、やっぱりいいなあ。
三十年も前の映画なのに、古臭さを感じさせない。悩みや傷を負った少年たち四人が、野ざらしになった死体を見つけに冒険をする。たったこれだけのプロットなのに、物語は深く爽やかで、切ない。
クリスがゴーディに相談をするシーン、そしてゴーディがクリスに相談するシーンは、とても悲しい。クリスは、「出来損ないの家族の一員だから、未来が暗い」と言う。ゴーディーは、「出来のよかった兄と比べられ、父親から嫌われている」と言う。
そしてゴーディは、「クリスは家族と違って賢いから進学すべきだ」と返し、クリスは、「父親はゴーディのことをわかっていない、物書きの才能がある」と返す。
このシーンがたまらなく好きだ。
四人は冒険をする。冗談を言い合い、汽車に轢かれそうになったり、蛭に襲われたり、喧嘩をしたり、夜の森に怯えたり、そして助け合いながら……。
クリス役のリヴァー・フェニックス氏の早世が悔やまれてならない。
たまにふとした瞬間に観たくなる映画の一つ。
【キーファー・サザーランドが出ていたのに驚いた度】 ★★★★★
【観ないと人生損してると言える映画度】 ★★★★★
【そういや可愛い姉ちゃんが一切出ていないな度】 ★★★★★
【総合 ★★★★★
【映画感想文】【洋画】 ジョージ・ルーカス/スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス 【1999年公開】
アナキン・スカイウォーカーの成長譚の序章。
成長譚と言うとヒーロー的に考えてしまうが、同時に悲しいお話でもある。
CGがふんだんに使われ、映像に現実味を与え、迫力があり、とても美麗。特にアニーのポート・レース場面は臨場感と迫力が素晴らしく、興奮してドキドキする。
ストーリーは、新三部作の序章なのにも関わらず壮大で、これから一体どうなるのかに期待。
しかし、唯一マイナス点を述べさせて貰うとすれば、少し冗長に感じた。そこだけ。
一番言っておきたいのは、アナキン・スカイウォーカー役のジェイク・ロイドの可愛らしさ。クレヨンしんちゃんのしんのすけ役である矢島晶子氏が吹き替えをしているので、ビジュアルと声の可愛らしさにやられてしまった。
母親との別れのシーンは切ないし、大きなヘルメットをかぶってポート・レースを頑張る姿は健気だし、終盤の空戦シーンでは、R2-D2と言い合うシーンが愛らしい。
そして、重要なキャラクターであるジャージャー将軍も愛らしいキャラクター。
演じているジェイク・ロイド氏は色々あったようで、やっぱり子役は上手く行かないんだな、と思わせる。
さて、エピソード2が楽しみだ。
【ここまで来たらもうすべて観たくなる度】 ★★★★★
【アニーだけでなく、パドメ・アミダラ役のナタリー・ポートマンも可愛いね度】 ★★★★★
【ここまで盛り上げてくれるとは思わなかった度】 ★★★★★
【総合】 ★★★★☆
【読書感想文】 西村賢太/東京者がたり
日記シリーズでもう疲れていたので、エッセイなら大丈夫だろうということで読んだ。
結果、とても面白かった。
僕はど田舎出身者なので、東京人が東京の場所場所を語るとこういう感じなのか、と思った。
下北沢がとてもお嫌いなようで。僕もなんとなく好きではない。
蒲田と大森があったのもよかった。
しかし、最後の玉袋筋太郎氏との対談で、玉袋氏が、「蒲田は怖いところだから行かない」と言っていたのに笑ってしまった。全然普通のところなのになぁ。
エッセイなので深い感想はなし。